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「能」
能は日本最古の演劇です。その歴史は約600年にもなります。起源は定かではありませんが、農民が五穀豊穣を祈る「田楽」、物真似芸の「猿楽」そして中国から伝わった歌謡、舞踏、物真似、曲芸などバラエティ豊富な内容の「散楽」、これらの芸能が互いに交流、影響しあい発展していきました。猿楽に音楽性・舞踏性の要素を取り入れ、更には幽玄の美を追求する芸能を確立。江戸時代になると、「歌舞伎」や「文楽」が庶民の演劇であるのに対し、能はその高度な舞台芸術が武士階級の楽しみとして幕府に保護されます。その後、幕府崩壊、明治維新、戦争などの混乱を乗り越え、今日まで長い間日本人に愉しまれ続けてきました。現在認められている能の演目は240種ほどあります。能は能楽師による舞、声楽、音楽等によって物語が演じられます。物語は既に他界した人物の人生が描かれています。つまり、主人公は多くが幽霊。幽霊というと怖い内容に思われるかもしれませんが、時代によって変わることのない人間の本質や情念を描いているのです。能の特徴として面をかぶることが挙げられますが、全ての登場人物が面をつけるわけではなく、神・精霊・亡霊などこの世の人でない役者は能面をつけ、現実の人間を演じる役者は能面をつけません。能面をつけていると表情で喜怒哀楽を表現することは出来ないうえ、演劇とはいっても笑い声や泣き声もないため、仕草によって表現するしかありません。例えば、嬉しい時には少し上を向く、悲しい時には少しうつむく、泣いている時は親指以外の4本の指を揃えて顔の下で近づけたり遠ざけたりします。このように顔の角度を変えたり、手の動き、足の運び、これら動作のスピードを変えるといった限られた動きの中で表現します。 音楽は笛・小鼓・大鼓・太鼓の四つの楽器を使い、舞台上で演奏されます。他の舞台劇では見られない珍しい体系です。たった四種の楽器ですが、その音色には豊かな広がりがあり、舞台上で演奏することによって反響効果もあります。また、地謡(じうたい)という声楽担当がいます。地謡は情景描写をしたり、主役の心情を代弁するなど、能を上演する上で大きな役割となります。その他、舞台が滞りなく運ぶように見届ける後見人、場面の表現方法に効果的な役割を持つ幕の上げ下げを担う人が舞台上にいます。 能の舞台は独特な造りをしています。建物の中にありながら、屋根と4本の柱がついた舞台になっています。屋根は反響版の役目があり、柱は屋根を支えるだけでなく、面をつけて舞う役者にとっての目印となります。真正面の壁には大きな松が描かれています。これは昔、野外舞台の背景に松が実在したことの名残です。描かれる松は老松を一本大きく描くという決まりがあります。また、舞台と幕をつなぐ「橋掛かり」という通路のようなものがあります。これは家の中と外、この世とあの世などを区別する空間として使われます。このように能は、舞台の構造、能面、役者の舞、衣装、音楽等があいまって独自の芸術美、幽玄な世界を創り出します。近来、「薪能」といって昔のようにかがり火の炎に照らされた野外で催される舞台は、多くの人に好まれています。 (終) ![]() |
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